矢野邦夫先生に「乳幼児のRSV感染症に対するニルセビマブの予防投与」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
乳幼児のRSV感染症に対するニルセビマブの予防投与
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus,RSV)は、米国の乳幼児の入院の主な原因となっている。そのため、RSV感染症の重症化を防ぐことはきわめて重要である。CDCが「乳児および幼児のRSV感染症の予防のためのニルセビマブの使用」[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7234a4-H.pdf]を公開しているので紹介する。
RSV感染症
ほとんどの乳幼児は生後1年以内にRSV に感染し、ほぼ全員が2歳までに感染する。RSV感染症の乳幼児は、細気管支炎(重篤になり、入院を必要とする可能性のある下気道感染症)を頻回に合併する。米国の乳児および5歳未満の幼児では、毎年約5~8万人のRSV関連入院と100~300人のRSV関連死亡が発生している。そして、30週以下(早産)で生まれた乳幼児のRSV関連入院率は正期産児の3倍である。未熟児では、RSV関連の集中治療室(Intensive Care Unit,ICU)への入院率も高くなる。未熟児はRSV関連入院の危険因子として認識されているが、RSVは健康な正期産児の入院の主な原因でもある。実際、RSVで入院した2歳未満の乳幼児の約79%には基礎疾患がない。
ニルセビマブ
2023年7月、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)は、乳幼児のRSV関連下気道感染症を予防するための受動免疫として、長時間作用型モノクローナル抗体であるニルセビマブ(nirsevimab)を生後24ヵ月未満の乳幼児のRSV 関連下気道感染症の予防薬として承認した。ニルセビマブは、RSV流行期(通常は秋から春)の直前または期間中に、1回の筋肉内注射として投与される。
2023年8月3日、予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices,ACIP)は「最初のRSVシーズン中に生まれた、またはそのシーズンに入っている生後8ヵ月未満のすべての乳児」および「重篤なRSV感染症の危険性が高く、2回目のRSVシーズンに入っている生後8~19ヵ月の乳幼児」にニルセビマブの投与を推奨した。
ニルセビマブの有効性と安全性
最初のRSVシーズン中に生まれた、またはそのシーズンに入っている生後8ヵ月未満の乳幼児を対象に、ニルセビマブの投与後150日間にわたって有効性を評価した。医療機関を受診したRSV関連下気道感染症の予防効果は79.0%(95%CI=68.5~86.1%)であった。入院を必要とするRSV関連下気道感染症の予防効果は80.6%(95%CI=62.3~90.1%)、ICU入院を必要とするRSV関連下気道感染症では90.0%(95%CI=16.4~98.8%)であった。重篤な有害事象の発生率は、プラセボ群と比較してニルセビマブ群では増加しなかった。
ニルセビマブ投与のタイミング
ニルセビマブ投与の最適なタイミングは、RSVシーズンが始まる直前である。RSV流行の直前または流行中に生まれた乳児には、生後1週間以内にニルセビマブを投与する。ニルセビマブは、出産入院中または外来で投与することができる。シーズン中のいつでも、まだ投与を受けていない年齢適格な乳幼児に投与できる。未熟児、またはその他の原因で出産入院が長期化した乳児には、退院直前または退院直後にニルセビマブを投与する。RSVの病院感染の予防のためのニルセビマブの使用をサポートするエビデンスはないので、そのためにニルセビマブを投与することは推奨されない。
小児用ワクチンとの同時投与
ニルセビマブと小児用ワクチンの同時投与による有害事象の発生率は、ワクチンの単独投与と同程度であった。ニルセビマブは、小児用ワクチンに対する免疫反応を妨げるものではないと考えられる。
(本誌のご購入はこちらから)
*INFECTION CONTROL33巻1月号の掲載の公開記事となります。
*本記事の無断引用・転載を禁じます。