MENU
新規会員登録・ログイン
トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】『感染症界隈』が苦手な人の会「血液培養」

*本連載は2017年1号本誌連載の再掲載記事になります。

今月の会のテーマ 血液培養

??会員からの質問

 医師から「患者が発熱しているので、抗菌薬の投与を始める前に血液培養2セットとってもらえる?」と依頼されることがあります。発熱して苦しんでいるときに2ヵ所から採血するなんて、気の毒に思います。1セットでもいいのではないでしょうか?

ざっくり解説すると!!

  • 血液培養が2セット必要な理由には、「採血時に混入してくる汚染菌を真の原因菌と判断してしまうことを避けること」と「検出感度を上げること」があります。
  • 患者に説明することなく2セット採血すると、患者は痛みに耐えられないかもしれません。しかし、「発熱の原因の病原体をキッチリと見つけ出して、適切な抗菌薬を開始するために、2回採血しましょう」と説明すると納得します。
  • 同じ部位から多く採血して2セットに分配するのではなく、異なる血管から採血した2セットが必要です。

理解しておくべきキーワード

血液培養:嫌気性菌および好気性菌の2本のボトルで1セットといいます。静脈からの採血でかまいません。まず、採血のタイミングです。悪寒・戦慄が出現しはじめたときや発熱の初期が最適であるといわれることもありますが、採血のタイミングと細菌の検出率には関連性はないという報告があります[1]。また、2セットの血液培養を同時に実施しても、24時間以内に分けて実施しても、検出率に差はみられないという報告もあります[2]。すなわち、培養のタイミング(発熱時の採血、採血の間隔など)よりも、血液培養の回数、採取する血液量の方が重要です。 血液培養イラスト

汚染菌:患者の皮膚に付着している細菌が、採血時に血液培養ボトルに混入してしまうことによって検出される細菌です。真の原因菌ではありません。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、コリネバクテリウム属、バシラス属、プロピオニバクテリウム・アクネス、ミクロコッカス属などが問題となっています。

汚染菌イラスト

それでは、矢野が解説します!分かりにくかったらすみません

血液培養2セット採取の必要性について、分かりやすく例をあげると、「二度見すること」「欲張りになること」となります。

二度見すること

 週末に映画などを見に行こうと思って、電車に乗りました。比較的すいていたので、座ってスマートフォンで映画館を検索していました。そこで、前方をチラッと見てみたら、向かいの席に中学校時代の親友にそっくりな人が座っていました。年月が経過しているので、容貌は異なっていましたが、絶対に親友に違いありません。その場合、どうしますか? いきなり、「○○君、久しぶり!」と声をかけますか? おそらく、もう一度チラッと見て確認するのではないでしょうか? 相手が本当に友人かどうかをよく確認もせずに声をかけて別人だったら、迷惑をかけてしまいます。確認するために、二度見をすると思います。

 血液培養も同様です。1セットのみの場合、バシラス属やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が培養されてしまったら、それが汚染菌か真の原因菌かの判断ができません。そのために、二度見の採血ということで、もう1セット必要なのです。

 電車で友達と思って声をかけたところ違っていた場合、「申し訳ありません。友人と間違えてしまいました」と謝れば済むことです。しかし、1セットのみの採血で、汚染菌を真の原因菌と思い込み、抗菌薬の投与を開始してしまうと、患者には的外れな抗菌薬が投与されてしまいます。その結果、患者は抗菌薬の恩恵を受けることなく、副作用のみを経験するのです。また、意味のない治療のためにスタッフのマンパワーや医療が無駄に使用されてしまうのです。

漫画

欲張りになること

 今度は「欲張りになること」についてです。ほとんどの人が大なり小なり欲張りであるはずです。まったく欲張りでない人がいるならば、仙人かもしれません。もしくは、物事をすべて悟った人なのかもしれません。しかし、ここでは俗世のこととして話を進めたいと思います。

 ボーナスを夏冬の2回もらっている職場は多いと思います。2回もらっている職場において、1回に減額するなどと言われると、ガッカリするのではないでしょうか? 職場で暴動が発生するかもしれません。逆に、年1回のボーナスの職場で、今年から2回に増額するなどと言われたら、おそらく、狂喜乱舞するでしょう。よいものをもらうときには1回より、2回の方がハッピーです。嫌なことならば回数を減らしたいのですが、よいことは増やしたいものです。

 血液培養は1セットよりも2セットの方が原因菌を検出できる確率が大幅に増加します。その結果、適切な抗菌薬でピンポイントな治療ができるので、これは「よいこと」といえます。それをスタッフが「面倒くさい」「患者に苦痛を与える」という一方的な判断材料で、回数を1セットに減らすことは適切ではありません。そのような判断をするならば、会社の経営者が「ボーナスをあまり払いすぎると、スタッフが居酒屋やケーキ屋に行く回数が増えることになり、体重が増えて、健康に悪い!」などという一方的な判断材料でボーナスを年2回から1回に減額しても、文句を言ってはいけません。

漫画2

あれ?うまくいかないときはどうすればいい?

2セット培養ができない!:血液培養が2セット必要であることは広く理解されています。しかし、実際に2セットを採取しようとしても、「血管が細い」とか「認知症で患者の協力が得られない」などの理由で、2セット採取がどうしても困難なことがあります。この場合にはやむをえず、1セットのみを採取し、カルテに「血管が細く、1セットしか採血できなかった」などと記録します。

●文献

1) Riedel, S. et al. Timing of specimen collection for blood cultures from febrile patients with bacteremia. J Clin Microbiol. 46(4), 2008,1381-5.

2) Li, J. et al. Effects of volume and periodicity on blood cultures. J Clin Microbiol. 32(11), 1994, 2829-31


インフェクションコントロール33巻4号表紙

⇧最新情報はこちらから