京都文教大学臨床心理学部教授/
産業メンタルヘルス研究所所長
中島恵子
“働く人”の支援に心理職が求められている
産業心理の職域
産業臨床とは、 “働く人” を対象とし、職場で活き活きと働くことを支援する領域である。“働く人” は、企業のみならず、学校、医療、福祉、公的機関、独立行政法人、NPO法人、研究所などさまざまである。本研究所の例を挙げると、メンタルヘルス研修講師の依頼においても、
・企業の従業員や中間管理職
・学校の教職員
・病院の医療従事者
・福祉施設職員
・公的機関の職員
・研究所の研究員や職員
・中小企業の経営者
など研修対象者は多岐にわたる。
研修の内容は、
・メンタル不調にならないための予防
・メンタル不調者への関わり方と対応
・自殺対策相談に必要な傾聴とアセスメント
・組織コンサルテーション
・地方公務員のメンタルヘルス対策
・経営者の健康管理
・相談活動に活かす対人援助者のセルフケア
・勤労者のストレスマネジメント
など多様である。このように、産業心理の職域は広くなっている!
メンタルヘルス施策への心の専門家の活用
働く人のメンタルヘルス(心の健康)施策が展開したのは、若手社員が過労自殺し、企業の安全配慮義務が問われたいわゆる「電通事件」であった。これ以降、具体的なメンタルヘルス対策が示され、産業心理職がメンタルヘルス施策の心の専門家として位置づけられた。産業心理職には、産業・組織を知ること、産業・組織における人を理解すること、心理学的支援をすること、が求められる。「電通事件」を契機に企業におけるメンタルヘルス研修、特に、メンタル不調や自殺の予防(一次予防、二次予防)の重要性が浮き彫りになり、全国に広まっている。さらに現在は、ゲートキーパー研修、ラインケア研修、経営者研修へと発展してきた。また、従業員の働き方の中にはキャリア発達の視点も重要であり、自身のキャリアに対する志向性の理解も必要となっている。
ストレスチェック実施者としての公認心理師
2015年12月から施行されたストレスチェック制度は、職場のメンタルヘルスケアの中核となりつつあり、公認心理師はストレスチェックの実施者として指定されている。そのほかストレスチェック実施者となることができるのは、厚生労働省令で定める産業医、歯科医、保健師、看護師、精神保健福祉士である。ストレスチェックでは、さまざまな心理的問題において、臨床心理学的知見に裏づけされた分析が求められる。さらに、職場環境改善には、人事領域、組織行動領域、消費者行動領域、安全とリスク管理領域などの産業・組織心理学的の知識が必要となる。
大学教育における公認心理師カリキュラムの中では、5領域(健康・医療、福祉、学校・教育、非行・犯罪、産業・組織)が明記されている。
産業・組織心理学は、学部では、職場における問題(キャリア形成に関することを含む)に対して必要な心理支援、組織における人の行動に焦点をあてる。大学院では、産業・労働分野に関する理論と支援の展開に含まれる事項、産業・労働分野に関わる公認心理師の実践が位置づけられている。本学では、学部で約150名、大学院で約30名が毎年学んでいる。
産業心理臨床家養成プログラムへの招待
本学は、産業領域に早くから着目し、2009年から「産業心理臨床家養成プログラム」を実施してきた。このプログラムは、年間20週40コマの講義を2年間受講することで、産業保健活動に関する知識を基礎的なものから実践的なものまで網羅的に学べるように体系づけられている。内容は、以下の4群から構成されている。
・A群(産業心理臨床固有と考えられる実践場面についての技術)
・B群(産業心理固有ではないが、産業場面で有用と思われる臨床心理学の技術)
・C群(企業、経営、組織など、産業場面で必要となる臨床心理学以外の知識)
・D群(実践指導〈事例検討、演習など〉)
受講者としては、産業医、歯科医、心理、精神保健福祉士、社会福祉士、保健師、看護師、作業療法士、神父など、さまざまな職種の方々が集まり、学んできた。個人参加はもとより、近年は、企業や医療施設から派遣されて参加している方もいる。
修了生の所感を下記にいくつか紹介しよう。
「本講義で学んだことは今後の活動にとってなくてはならない土台(基礎とそこから展開する骨組み)となった」 「メンタルヘルスとは社員のみならず経営者も対象であり、企業や組織の主活動ではなく支援活動として重要であることがわかった」 「毎回3時間という短い時間なのに中身が濃く、2年もあっという間に過ぎた印象をもった」 「組織を通じて個人を守るのであり、個人臨床も組織臨床も同じであることを学んだ」 「第一線の専門家である仲間と一緒に学ぶ機会を得たことは大きな収穫であった」 「どのプログラムも毎回何か持ち帰れるものがあり、即実践で使えるものが多かった」 「中小企業による社風や理念の違いが会社の安全衛生や保健活動に大きく影響することがわかった」 |
国家資格としての公認心理師が生まれたことで、産業領域での活性化が望まれる。うつ病などの疾患や企業内の人間関係の不和などによって、企業が受けている経済的損失は莫大な額になっていると考えられる。そのような観点から、公認心理師国家資格者がさらに活躍する領域として、産業領域を考えていくことができるのではないだろうか。
産業心理臨床家養成プログラムを受講してみませんか?
京都文教大学産業メンタルヘルス研究所では、2021年度 産業心理臨床家養成プログラムの受講生を募集いたします。興味のある方はぜひお問い合わせください。
★産業心理臨床家養成プログラムパンフレットはこちら
★プログラムの概要・応募方法など
プログラムの期間 | 2年(2021年6月より開講、翌々年の3月修了) |
受講料 | 年間150,000円 ・講義、グループ・スーパーヴィジョン(グループ形式の授業)を年間20週40コマ開講。 ・対面開催の場合は、キャンパスプラザ京都講習室、京都文教大学で開講。オンライン受講も可。 ・プログラムの修了者には、修了認定証を交付。 |
開講曜日 | 土曜日(午後)講義・演習(2コマ) *1コマ 1時間30分 *講義内容によって、集中形式で行われる場合があります。 |
応募対象 | 産業精神保健分野での活躍をめざす方 |
資格審査 | プログラムへの参加に際して資格審査を行います。 ●一次審査:書類選考…応募時に提出していただく書類、履歴書で産業メンタルヘルス領域での活動歴、メンタルヘルスに関する学習歴、臨床心理士、公認心理師などの資格の有無(資格取得見込みを含む)等を確認します。また、組織・団体からの推薦文も参考にします。 ●二次審査:面接…産業領域での活動経験、産業心理臨床への関心などについて質問します。 |
審査申込締切 | 2021年4月30日(金) |
申し込み方法 | ホームページより詳細を確認ください。 |
お問い合わせ先 | 京都文教大学 産業メンタルヘルス研究所 〒611-0041 京都府宇治市槇島町千足80番地 E-mail:sangyou-kbu@po.kbu.ac.jp |